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十一日目 宮城-愛知

フェリーの時間が近づいてきたので僕は仏堂の柵から手を離して島を眺めるのをやめた。いつまでもそんな風景を眺めているわけにはいかないのだ。三つある短い橋を渡ってから公園の向かいにあるお店まで歩いていき土産物をいくつか買った。買ったうちのひとつは「がんばろう、日本!」とかかれたタオルだった。なぜそんなものを買ったのかはわからない。でも東北にきて僕の心境が変わりつつあるのは確かだった。僕はそのタオルを大事にしまい、駐車場まで歩いていってTODAYに乗った。僕は仙台港へ戻ろうとしていた。

仙台港に着くとやることもなかったので、フェリーが出航する時間まで船内で必要になりそうなものをコンビニに買いに行った。僕が買ったのはいくつかのお菓子と最近新刊の出た漫画コミックとオレンジジュースと使い捨てアイマスクだった。お菓子はいくつかその場で開けて食べてしまい、買った数の半分にまでなってしまった。その中に「キャベツ太郎」が入っていてそれを食べたのはずいぶん久しぶりだったが、なかなか美味かった。僕は食べきったお菓子の袋を一気に両手でつかんでゴミ箱まで運び、それを捨てた。そして外にある水道で手を洗い、顔を洗った。コンビニの前にいた育ちのよさそうな制服を着た女の子が僕の方をちらりと見た。まともな人間は昼前からお菓子を三袋も食べ、外にある水道で顔を洗ったりはしない。僕はまず「わさビーフ」を食べ、「おっとっと」を食べ、「キャベツ太郎」を食べたのだ。お菓子の数はみるみるうちに減っていった。僕はよほど「カラムーチョ」も食べてやろう思ったが、少し考えてやめた。お腹いっぱいになるし、それに船内で食べるものがなくなってしまうからだ。

それから僕は立ち上がってフェリー乗り場まで行く前にまた「キャベツ太郎」を買って食べた。よほど懐かしかったのだろう。あれは中毒性がある。また水道で手を洗い、荷物を整理しているうちに時間は出航四十分前になり、僕は荷物を詰めて急いでフェリー乗り場へ向かった。船は仙台に別れを告げる暇もなく出航の合図を出して、港をはなれていった。僕はもう思い残すことはないと思った。二等の部屋に行き寝転がってアイマスクをつけると、やがてゆっくりと潮が満ちるように眠りがやってきた。