MENU
おすすめの記事はこちら

十二日目 愛知-大阪

目を覚ましたとき二等の部屋の中は真っ暗だった。時計の針は五時半を指していた。朝の五時半だ。僕が船に乗ったのは昨日の昼一時だ。となると、僕は十六時間もここで眠っていたことになる。そんなに寝たのか? こんなにも長い間一度も起きずに寝ていたのは人生で初めてだった。僕は体を起こし、なにもせずただ漠然とその場に座り込んでいた。意識がだんだん戻ってくると僕は極度に腹が減ってきた。それは暴力的と言ってもいいくらいの空腹感だった。眠っていたときはおそらく意識がなかったせいで空腹のことまでは気がつかなかったのだろう。でも今では腹の空白がはっきりと胃に感じられた。僕はまだ半分しか開いていない目を手の腹でこすって覚ましながら、船内にある食堂へ行こうと決心した。食堂はまだ開店していなくて前で三十分ほど待っていたが、バイキング形式で食べ放題だった。僕はご飯三杯と取り皿三回分、トースターでパンを二枚焼いて食べた。食後にはコーヒーを二杯飲んだ。なかなか美味かった。

二等部屋に帰って荷物を整理してから服を着替え、洗面所へ行って歯磨きと洗顔を済ませた。それからあてもなく船の中を散歩して、甲板にあるベンチに座り水平線を眺めていると、船内の放送がまもなく名古屋港に着くことを告げた。僕は荷物をまとめてゆっくりとTODAYの元へ下りて行った。周りには僕と同じように旅人の格好をした人たちがいた。これからどこかへいくのだろうか、それとも僕と同じようにこれから帰るのだろうか、と僕は勝手にその人たちを見て想像を膨らませていた。船の出口が開いて大型トラックや貨物車がつぎつぎと外へ出て行き、二輪車の順番が回ってきた。僕は船をおりる前にゆっくりと深呼吸をした。もういろいろとおわったんだ。不安や恐怖を感じることはもうない。暗いことについて考えるのはもうやめよう。もっと前向きなことについて考えよう。弱い自分の姿を見つけてその課題と向き合ったことについて考えよう。それを乗り越えるために僕はこの旅に出た。弱い自分を変えるために。船員は笛を吹いて二輪車を誘導し、それを聞いた僕はTODAYのエンジンをかけて船を出た。