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十二日目 愛知-大阪

僕はさまざまなことをこの旅で経験してきた。好奇心に駆られて出発し、恐怖と絶望を味わい、内省し葛藤し、たとえようもない寂しさや悲しさを東北で感じた。九州や中国や四国、関西と関東、東北へいく中で見方が変わり、考え方が変わり、行動が変わった。僕は数え切れないようなものをこの旅で得た気がする。

あるいは僕は何も変化していないのかもしれない。それは「気がする」だけで、実際には何の変化も見受けられないのかもしれない。身長だって変っていないし顔の形だって変わっていない。足のサイズだって変っていない。目に見える変化と言えば体重の変化くらいだろう。またそれらは、つまり僕の内的な変化は、僕自身が見た変化であり、他者からは変化とは呼べないのかもしれない。しかしそれでいい、と僕は思った。結局「変化する」ということはそういうことなのだ。自分自身が「変化した」と思えばそれは「変化」なのだ。

こんなこと考えていてもどこへもたどりつけないと思った僕が考えるのをやめると、周りの風景が徐々に色彩と形状をとり戻し始めてきた。その風景は前の記憶と変わっていなかった。どれくらいの時間自分の中にいたのだろう? わからない。それは数秒かもしれないし数十分かも知れない。でもとにかく、今の僕の中にはわだかまりのようなものはない。「自省」は十分にできたのだろう、と僕は思った。心にあった雲は晴れてすがすがしい日本晴れの気持ちが心を占めていた。僕は体勢を整えて深く座り直してからもう一度その風景を見て目に焼き付け、エンジンをかけて西の方向へと進み始めた。