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十二日目 愛知-大阪(完)

僕は奈良を越えて大阪へ来ていた。実家を目指して進み国道二十五号線の二度目の洗練を受けて、僕は故郷に帰ってきたのだ。大阪へ帰ってくると、通天閣御堂筋線、なんばの夜の街があたりに彩り鮮やかな光を照らし出していた。僕はこれまでの旅で一番の安心感を抱いていた。それは旅の終わりの安心感なのか、故郷に帰ってきた安心感なのかはわからなかったが、その思いは僕に毛布に包まったときのような温かさを感じさせていた。

見慣れた街を通り抜けてにぎやかな街並みを横目に見ながら、ようやく実家にたどり着いた。「やっとついた」それが最初に抱いた思いだった。僕は家のチャイムを鳴らした。

「はーい。」と言って母親がドアを開けた。

「ただいま。」と僕は言った。

母親はドアを開けた手を握ったまま玄関から片足を出して、放心したように五秒ほど僕を見ていた。

それからふと我にかえったように母親は言った。「あれ? おかえり?」自分で言った言葉の意味が分かっていないみたいだった。

「旅をしてここまで帰ってきたんだ。」と僕は言った。

「そうなの?」母親はまだ納得できていないようだった。僕と母親の間には陽気な沈黙のちりが漂っていた。そしてそのちりを乱すように母親は言った。「とにかく寒いでしょ? 温まるから家に入りなさい。」

家に入ると僕の心は明かりが灯ったみたいに温かくなった。家の中は明るく暖房がきいていて体の芯まで暖かくなった。そこには父親と兄もいた。

「どうして?」と母親はいろんな意味を含めた疑問を投げかけた。

「どうしても。」と僕は言った。

母親は大きくため息をついた後、「まあいいわ。元気そうな顔してるし。どこも悪そうなところもないし。」と半分あきれて半分嬉しそうに言った。

それから僕は旅の出来事やどうして旅へ出たのかを話して、いままでどこにいたのか、どういうことをしていたのか、どういうものを見たのかを詳細に伝えた。

「よく帰ってこれたわね。」それが母親が一番最初に言った言葉だった。

「とてもたのしかったんだ。いろいろとつらいこともあったけれどね。」と僕は言った。

「ほんとうに」と母親は言った。「あなたが無事に帰ってこられてよかったわ。好奇心ですぐに行動してしまうタイプだけど、ここまでするとは思わなかったわね。なによりあなたの命が無事でよかったわ。それが何より大事。好奇心でとび出して命をなくしてたらわたしどうしてたか。」母親の言葉はどこか寂しさを含んでいた。

そしてこう続けた。「命の危険を感じてちゃんと帰ってきたのは賢明だったわね。あなた運がいいのね。わたしの妹に感謝しなさいよ。」

「運がいい」。この言葉も確かに正しいのだろう。僕はいろんな力をもってこの旅を終わらせられたのだろう。命もあってこの経験もして旅は終わるようになっていたのだろう、と僕は思った。僕は不思議な力を感じながら家族とのあたたかい時間を過ごし、この旅を終えた。

 

                  完