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一日目 鹿児島-大分

僕は混乱した意識を戻し自分の体に自分の意識を入れ込んだ。体の微妙なバランスは絶妙なバランスにかわり、立ち上る湯気のように何もかもが軽くなってきた。何より素晴らしいのは人がたくさんいて明るいことだ。僕はここで温泉に入ろうと決心した。

選んだのはホテル風月HAMMONDが運営している温泉だった。名前は夢たまて筥。鉄輪(かんなわ)と呼ばれる種類の温泉があり日本一の湧出量を誇る別府市で鎌倉時代に一遍上人が開いた歴史ある温泉、を僕は堪能した。自然と安らかになり、-周りの人が裸であることが関係しているかわからないが-心を広げることができたような気がした。さっきまでの不安はどこかへ行き、どこからか湧いてきた自信とやすらぎと安心を手に入れ、僕は泊まれそうな場所を探した。

                   *

僕は寝袋を持参していたため公園を探した。恥ずかしながら僕はそのとき宿の取り方も知らなかったのだ。温泉で温めた体からは湯気が立ち上った。湯気を見ると、温泉街の活気を自分も手に入れたような気がしてあたたかくて満ち溢れた気持ちになれた。安心した心境で<知らない遠くの町>をふたたび見るとみんなが僕のために明かりを灯してくれているような気がした。温泉宿の明かり、街路の明かり、町の明かり、みんなそうである。それらの光がまるで何かの啓示のように僕の弱い心に射し込んだ。自信が湧き、ひとりでもこの長い夜をすごせそうな気がした。そのような思いを抱きながら国道を走っていると公園はすぐに見つかった。草木が繁茂して、蜘蛛の巣がねばねばとして、樹々がなかよく並んでいた。ときどきまわりの茂みが風に吹かれてさわさわと気持ちのいい音をたてた。空はもう真っ暗だが気にはならなかった。そこには樹木と草と小さな生物がもたらす限りのない生命の循環があった。その穏やかな世界の中では朝には鳥の声ものびやかに響くのだろう。

僕はひとりでテントを張る場所を探した。