MENU
おすすめの記事はこちら

一日目 鹿児島-大分

宮崎についた。鹿児島から出発してまだ引き返せる距離だったので安心感があった。小学生の家出みたいに遠出するといっても戻ってこられる距離にいき、結局は寂しくなって帰ってくるということはよくある。そういう安心感はたしかにあった。でも、帰る気はこれっぽっちもなかった。僕は前しか向いていない。僕の気持ちは大山脈の岩のように固かった。小学生の家出ではないのだ。

宮崎についてから荷物を支える板が故障したので、ホームセンターに行って買い物をしてそれを修理した。それから再び九州の抜け道をめざして進み始めた。宮崎は長い。東西へ進む人にはまだ短いが、南北へ進む人にはとても長い。もちろん僕もその南北へ進む人だった。このような府県は他にもある。大阪もそうだ。長野もそうだし、熊本も、岩手もそうだ。北海道はわけがわからないくらい長い。逆の県もある。つまり、南北へ進む人にはまだ短いが、東西に進む人にはとても長い。山口がそうだし、鳥取や島根はやけに長い。僕のいち押しは静岡だ。あれは永久におもえる。またここでもちろん北海道はランクインする。そうとおもえば、右下にくちばしを伸ばしたタツノオトシゴみたいに見える京都府だってある。いまにも飛びたちそうな鶴のかたちをした群馬だってあるし、げんきに腕をあげて力こぶを見せている青森だってある。犬のかたちをした…もうやめておこう。日本はおもしろいかたちをしている。

                    *

そんな風に長い宮崎を走っていると、森林にはさまれた山道に出た。曇り空。山と山の切れ目で吹き抜けになっていて、寒風に吹かれてそよぐ木が並んでいた。マイナスイオンで空気はきれいで、澄んだ色の川が流れていた。まわりに人はいない。寂寞として別の世界に入りこんだみたいだった。こんな道が永遠に続いているのか。僕はそう思った。しみのようにひろがる寂寥感ともってきた勇気を天秤にかけて、僕は進んだ。

僕はもうすぐ宮崎をぬける。