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二日目 大分-広島

防府市のあたりにさしかかったとき日は傾きかけていた。このままここに泊まろうかと考えたが「せっかくここまできたんだ。広島までいこう」と決意して僕は走り続けた。しかし、このとき僕の頭に何かがよぎった。嫌な予感がした。何か黒くてもやもやとしたものが頭の中に重く残り、それを追い出せなくなった。でもとにかく僕はその予感を気にもとめずに東へ東へと進みつづけた。「あとちょっとなんだ、大丈夫だよ」と自分に言い聞かせた。距離と時間を計算しても十分な時間につくはずだ。自信はあった。でも一方で、何か不吉な予感のするものが心の一部に染み込んでくるのが感じられた。夕闇みに染まっていく陽は何かをうったえるように淡くその光を失っていった。

防府市をぬけて周南市をぬけると、町の形相はどこかへいき山道にはいった。空はどんよりと暗く曇り始めていた。淡い闇が静かにまわりを漂っていた。山からは強い風が吹きつけてよそからきた僕を威嚇しているようだった。周南市から一時間は走っている。でも町はまだ見えてこない。地図上では大竹市広島県の入り口で順調につくはずなのに。それまでに町はあるはずなのに。僕はそのとき自分のいる場所を知る手段を持っていなかった。携帯に位置情報はついていないし、まわりに地図のあるような店はない。だんだんと不安になってきた。見上げるとより一層深い闇がこの場を包んでいた。頭の中にあった何か黒くてもやもやとしたものがもっと重くなり、そのかたちを変えて僕のあたまを占めるようになってきた。意識もそれにつれて重くなり漠然としてきた。昨日よりもひどい。目の前がぐらぐらと揺れ始めて体のバランスが微妙どころではなくなってきた。こんなに不安になったのは生まれて初めてだ。