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三日目 広島-愛媛

大島に入ってからしばらく進むと来島海峡大橋が見えてきた。その先には暗い空と海と今治の町の夜景が広がっている。今治の町の光がしまなみ海道の終わりを告げていた。その光は少し僕を寂しくさせて、なぜか急に保育園の遠足で行なった最終日の花火を思い出させた。最後の運賃を払って強風に吹かれて何度も倒れそうになりながら橋を渡りきり、後ろは振り返らずに今治市へ入った。今回は不安でも強風でも倒れなかった。それから宿を張れる場所を探そうとして公園のありそうな道へ入ったが、その前に急に僕は温泉に入りたくなってきた。どうしようもなく温泉に入りたくなった。ガソリンスタンドの店員さんに温泉の場所を聞き、ここから十分はあるよ、と言われたが、かまわないと答えてすぐにそこへ向かった。しばらく言われた道を進んで角を曲がって、温泉を見つけてそこへ入った。そして一時間ほど入って上がったあと、牛乳を飲んで畳で休憩してから再び宿を張れる場所を探した。

宿はどこがいいかと考えているうちにそういえば道の駅はどうかと店員さんが言っていたことを思い出した。さっきのガソリンスタンドで温泉までの道順の他に、明日の天気と合わせて教えてくれたのだ。他に行くあてもなかったので教えてもらった道の駅「今治湯ノ浦温泉」に宿を張ることに決めた。ここの温泉は運悪くその日はもう閉店してしまっていたのだ。僕はテントを取りだして一人で組み立てる工程を十まできちんと行なった。(1)テントを袋から取り出すにはじまって(10)杭を打ちつけるに終る、あの工程をだ。ひとつひとつ番号を数えながらきちんと順序通りに、もれなく確認して行なった。工程は(9)で終わってしまったが、コンクリートで杭を打ちつけるところがなかったのでとくに気にもとめなかった。そこまで終えると僕はひどく眠くなってきた。それは暴力的と言ってもいいくらいの激しい眠気だった。なにしろ昨日は寝ていないのだ。僕は何も考えずに寝袋に包まりタオルを枕にして寝転んだ。そのまま目を閉じ、底が見えないくらい深い眠りの中に急速に落ちていった。