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三日目 広島-愛媛

伝統のある家が軒を連ねてこの島の歴史をあらわすモニュメントがいくつか並んでいた。松の木が涼しそうになびき、海からの潮風は心地よいものだった。鹿までいた。鹿?と僕は思ったが、まあ鹿ぐらいいるさ、奈良公園には約千三百頭も鹿がいるんだ。ここにいたっておかしくない。僕はなんだかこの旅で寛容になりつつあるようだ。あるいは無関心か。そんなことに考えを巡らせているうちに世界遺産のひとつである厳島神社の本宮に着いて、そこでお参りをした。この旅ではじめての世界遺産を眺めていると湧水のようにうれしさがこみあげてきた。そのような思いをたぎらせているとふと老夫婦の言葉を思い出した。僕は迷わず携帯で写真を撮ってみた。なかなかいいものだ。奥さんの表現を借りるなら孫の顔と名前が一致しそうな感覚があった。

やることもなかったので適当に街並みを歩き、名産物であるもみじ饅頭を買い、食べてから残りは鹿にあげて島を出た。本土に降りるとこちら側から眺める宮島がさみしく見えたが大丈夫な気がした。空を見あげるとどんよりと曇り始めて雲は以前より低く垂れていた。その不気味な暗みは地上にあるものすべてを嫌な気分にさせた。ひっそりとした小さな雨粒がいくつか空から風にのってゆるやかに地上に舞い降りてくるのが感じられた。雨がふってきたのだ。急がなくては。僕はTODAYにまたがりアクセルをまわした。