MENU
おすすめの記事はこちら

四日目 愛媛-兵庫

僕は勉強もなんでもできてスポーツも万能で部活動のキャプテンにも就任していたクラスメイトの家へ向かっていた。彼は神戸大学に推薦入試で合格し、一人暮らしをしながらささやかな学生生活を送っていた。長い道のりを進み続けて住所の通りにTODAYを走らせ、ようやく彼の家に着いた。

「久しぶりだな。」彼はそう言って僕を迎えてくれた。

彼の部屋は新品のようにぴかぴかと光っていて、きちんとたたまれた洗濯ものやリモコンを入れたかごやティッシュの箱がきちんと角をそろえて置かれていた。

「相変わらずだな。」と僕は言った。

「何も出すものもないけど、適当に座ってくれ。」と彼は座布団をすすめてくれた。

僕は座布団に座って彼が台所でお茶を入れているのを待っているうちに、これまでの旅の経過を話し、高松のフェリー乗り場で君のことを思い出してさっきの命題について考えを巡らせていたことを話した。

「お前またそんなこと考えてたのか。」と彼はお茶をリビングに運びながら言った。僕は昔からこういう命題についての自分なりの結論を彼に話していたのだ。

「ああ、僕はいつまでも偏屈者だな。」と僕は言った。彼は顎を一センチほど上下に動かしただけであとは何も言わなかった。

「お前はこの命題についてどう考える?」と彼に向かって僕は聞いてみた。「さあ、わからないな。」と彼はソファーに腰かけて本を開きながら言った。「わけることがいいのかもしれないし、よくないのかもしれない。」

「なんだよそれ。」と僕は言った。僕は彼の答えに期待していたのだ。おもしろくない答えが返ってきてこれ以上議論を交わすことが出来ないと思った僕は、シャワーを貸してくれと頼んだ。彼はバスタオルとハンドタオルを持ってきて、シャワーの場所を教えてくれた。それらを済ますと彼はまたソファーに戻った。僕はユニットバスに入り今日一日の汚れを洗い落としたあと、さっぱりとした気持ちでシャワーから上がってきた。彼は相変わらず難しそうな顔で本と睨めっこしながらソファーに深く腰掛けて座っていた。僕が鏡の前に立ってドライヤーで髪を乾かしていると「なあ。」と彼は振り返って僕の顔をじっと見上げながら言った。「さっきの話だけど、」と彼は続けた。

「俺はそんなこと考えたこともないし、世の中のことをまだあまりよく知らないけれど、でもこれだけは確信をもって断言できるな。もしお前が偏屈者だとしたら、偏屈者じゃない世の中の大人はみんな馬鹿だ。」