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四日目 愛媛-兵庫

今治を出て少し進むと、香川に出た。香川と言えばうどんだと僕は即座に思った。別に腹が減っていたわけではない。それどころか朝食はさっき食べて空腹なんてほとんど感じなかった。でもせっかくきた香川を素通りしてしまうわけにもいかない。僕はとにかく讃岐のうどんを食べてみたかったのだ。適当にうどん屋を探してそこへ入ってみた。開店時間前だったようで暖簾はまだかかっていなかったが、入って大丈夫かと聞くと、もうすぐ開店だから大丈夫だと言ってくれた。個人経営の飲食店の人はみんなやさしい。ぶっかけうどんをひとつ、といって僕は店内に入った。店主は厨房にもどってガスの火をつけて鍋の水を温め、それが沸騰するまでにFMラジオを聴きながら皿を洗って乾かしていた。FMラジオはBUNP OF CHICKENの「天体観測」を放送していた。皿洗いをするにはうってつけの曲だった。というか何をするにもさしさわりなく盛り上がった気分になれる曲だった。鍋の水が沸騰してくると乾麺を取り出してテボへ入れ、金網のフックを鍋のふちに引っ掛けてタイマーをセットしてから、店主はまた皿洗いに戻った。BUNP OF CHICKENは曲を最後のサビへもっていこうとしていた。タイマーが鳴ったのを聞くと店主は駆け寄って鍋からテボを取りだして熟練の水切りをみせ、どんぶりに入れたうどんを僕に差し出した。それからはセルフサービスだよと言って、商品が並んでいる方を差した。そこにはてんぷらや青ネギや大根おろしや温泉卵がずらりと並び、選んでほしそうにそれぞれが独特の輝きをはなっていた。僕はちくわのてんぷらとレンコンのてんぷらを選んだ。何かを選んだり付け加えたりすのは悪くなかった。そこには自分でつくったオリジナルな食べ物ができあがる。僕は勘定を払って自分で作ったオリジナルうどんを大事そうにかかえながら席に着いた。コシの強そうな麺、色彩を持たせる薬味のネギとおろし生姜、そして大根おろしをかけ、最後に天かすをちりばめて、だし醤油をぶっかけた。おいしすぎてほっぺが落ちそうだった。

僕は礼を言って店を出て、歯に引っかかったネギを爪楊枝でとりながら、こういう衝動的な名産物の食めぐりもいいなと思った。満腹でそんなことを考えているとくるしくなってきたので、僕はまたTODAYにまたがり東へと向かった。