MENU
おすすめの記事はこちら

五日目 兵庫-大阪

イオンモールのサンマルクカフェに着いたとき彼は既にそこにいた。彼はじっと珍しい動物でも見るような目で僕の姿を見ていた。

「久しぶりに会ったと思えば、なんだその格好は?」と彼は驚いたように言った。

「いろいろあってね、旅に出ているんだ。」と僕は答えた。

僕は旅の経緯を話し、海のことや山のこと、島のことを彼にわかりやすくかみ砕いて伝えた。

「そんなことどうでもいいんだけどさ、」と彼は一蹴した。僕は自分の話題が飛ばされたことをいささか不満に思ったが何も言わずに彼の話の続きを待った。

「僕人生ではじめて好きな女の子ができたんだ。でもコミュニケーションが取れなくて悩んでるんだ。どうやったら会話を長く続かせられるかな。」

彼は昔からよく話を飛ばすくせがあった。僕は自分の旅の話をもっと彼に聞いてほしかったのだが、彼が真剣そうな顔で悩んでいるのを見て、一息ついてから言った。

「コミュニケーションなんて空間認知のようなものだよ。相手が話している空間を認知して、自分もそこに向けて話しかければいいんだ。簡単だよ。ほら、たとえばいま僕が『昨日の晩御飯は・・・』と話し出すと会話が成り立たないだろ。これは空間が飛んでいるんだ。いまは『コミュニケーション』の空間で話している。それで会話を長続きさせる方法だったね。それは空間どうしを繋げる練習をすればいいんだ。ここからそこへ、あそこからむこうへってね。それには興味を持って相手の話を聞かなくちゃならない。空間を共有するためにね。さっき僕がどんな旅の話してたかわかる?」

「え?なにが?」

「そういうところだよ。」と僕は言った。

彼は苦虫を噛んだような顔でひとしきりそのことに考えを巡らせてからコップに入った水を飲んで、僕を見た。

「なんとなくわかった気がするよ。」

「それはよかった。」と僕は言った。

それから僕と彼は六時になるまで彼の好きな女のことや昔の思い出話なんかを話しながら久しぶりの再会を楽しんだ。

「じゃあ僕はもういくよ。」と僕は言った。

「ありがとう。いろいろと楽しかったよ。」と彼は言った。

六時になったので僕らは席を立って別れを告げた。僕はそのまま今日泊めてくれる友達の家へ向かった。