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五日目 兵庫-大阪

僕がベッドに寝て、彼は通路に座椅子を敷いて寝ていた。僕は起き上がって、頭の中に漂っているちらちらとしたものを眺めながら、漠然とした意識でリビングを見渡した。すると彼が起きてきたので、今日は大阪に行くと伝えると、彼も来ると言った。大阪にいる友達に会いに行くのだそうだ。僕らはなるべく早く身支度を済まし、ドアを出て鍵をしめてから階段を下りた。彼はスズキのLets4に乗っていた。僕らはエンジンをかけて出発して、僕が先頭を走り彼が後続、というかたちになって大阪を目指した。彼と僕は行き道で迷い、レンタカーの店に寄って道をたずねた。店員は彼に向かって話しかけていたが、彼はまるで理解ができないといった顔で意味のない数字の羅列を見るように地図を見ていた。彼は方向感覚が優れていなかったのだ。僕はやったと思った。人の欠点を見つけるとなぜうれしくなるのだろう? 僕はその命題に捕らわれる前に、店員から話しかけられてはっとなって教えてくれた道順を覚えた。

神戸-大阪は驚くほど近かった。鹿児島からここまで来た僕にとっては目と鼻の先くらいに感じられた。大阪に着くとそれぞれの目的地へ向かい、僕らは別れた。どこへ向かおうと思った。僕の故郷は大阪だ。しかし同時に家に帰りたくないとも思った。家に帰ってしまうと安心感が僕を家から出さなくなるだろうという気がしたからだ。安心感がいままで蓄積してきたものを、とくべつ旅に必要で重要なものたちを、冷ますかもしれない。僕は高校時代の友達に連絡を取り、近くのイオンモールで待ち合わせることにした。