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九日目 神奈川-福島

僕は横浜を出発して東京に来ていた。そこは東京の中心地ともいえる千代田区のあたりで朝からこれまでに感じたことのない種類の雰囲気が街全体を覆っていた。左右に並んだ高層ビルは今にも襲いかかってきそうで、すべての建物は実際的な構造をしており、空きのない敷地にところせましと立ち並んでいた。街全体はロボットの体のように入り組んでいてその体の中に車が体内物質みたいに絶え間なく流れていた。高い建物の奥にひときわ目立って東京タワーが見え、それは東京の象徴として堂々とした風貌を構えていた。なんだか足が生えて動き出しそうだなとふと僕は思った。しかしあたりまえだがそれはぴくりとも動かなかった。周りは人工物が埋めつくされる中で皇居は緑の木を茂らせて青の水面を映しだしてその優雅な姿をいささか場違いに構えていた。とてもきれいだと僕は思ったが、周りと調和していないのがなんだかとても不思議に感じた。

人々は日本中のどの街よりも忙しそうに行き交いそれぞれの目的地へと急いでいた。走りながら腕時計を見るスーツ姿の会社員、高いヒールを履いて早歩き競争でもしているのかというくらいの速度で歩くOL、高級車の運転席で電話をしながらサンドウィッチを食べてメモを取るカジュアルスーツのビジネスマン。僕はそんな人たちを眺めていると、皇居ランをしている人でさえ何かに追われて走っているのかという気がした。僕はどこかの国の兵隊のように規則正しく歩いては止まる交差点の人々を眺めながら、親友の言葉を思い出していた。「全てのものが歯車として街を大きくするために動いてる。そのスピードが異常に早いんだ。そこにやさしさが必要であるわけないよ。」信号が青になってから全速力で走って渡る会社員を見て、そんなに急がなくてもいいのにと僕は思った。時間はたくさんあるし死ぬわけじゃないんだ。急いだっていいことはないよ、と。しかしそんな僕の思いとは裏腹に街の歯車は休みなく動いていき、決して止まることなく異常なスピードで回り続けていた。