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七日目 静岡-神奈川

大学に着くと彼はすでにコーヒーを飲んで座っていた。僕は近づいて声をかけた。

「よう。久しぶりだな。」

「ほんと久しぶりだな。」と彼は立ち上がって言った。

「変わらないなお前は。」と僕は言った。「お前もな。」彼も続けた。

僕たちは小学生の頃からの親友で高校生の卒業まで一緒に学校へ通っていた。僕は十二年間の思い出話をするには時間が足りないと思ったのでこれまでの旅の話をすることにした。

「ここの人たち、というか都市圏で働いている人たちだけど、なんだかみんな冷たいな。」と僕は言った。

「そうだよ。俺もこっちへきて驚いてる。」と彼は肩をすぼめて言った。

彼はそれから一度大きく深呼吸をしてゆっくりと息を整えた。カフェ中の空気を吸い込んだ彼はそれからかわいそうな捨て猫を見るような目で僕を見て言った。「極端な言い方になるかもしれないけれど、」僕は黙って聞いていた。

「彼らにとっていちばんたいせつなのは時間やお金だよ。そのほかのものはみんな邪魔なんだ。実際的すぎるんだ。たとえば、いくつか物事があって時間が与えられているとする。物事を時間内に終わらせられるか算段を立てる。効率的に。それが一番大事なんだ。それが人の気持ちを理解することよりも上にあるんだ。全てのものが歯車として町を大きくするために動いてるんだよ。そのスピードが異常に早いんだ。そこにやさしさが必要であるわけないよ。」と彼は一息で言った。

「この前駅のホームで転んでカバンの中身をばら撒いたとき、通勤ラッシュで誰も助けてくれなかったもんな。あれは悲しかった。」と彼は言った。

「そうなんだ」と僕は言った。「でもお前は都市圏で生活している。」

「ああ、仕方ないよ。これに合わせなくちゃ。」

僕と彼の会話はそこで終わった。何かの火が鎮火したみたいに話の勢いが収まった僕らはタイミングを見計らったように同時にコーヒーを一気に飲み干した。それから飲み終わったコーヒーカップをトレイにのせて返却口まで運んでいき勘定を払って外に出た。

夜は中華街で小龍包とラーメンを食べて、帰りにコンビニでモナカアイスを買って帰った。電車は三十分ほどで最寄駅につき、それから一緒に歩いて今日泊まる彼の家まで向かった。