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七日目 静岡-神奈川

芦ノ湖が見えてくると道路標識は箱根に入ったことを知らせた。そこは高低差が大きくて僕は何度も蛇のようにくねくねとした道を進まなくてはならなかったが、街や景色の雰囲気はじつに優美だった。高い位置から湖と山の眺望が利いて一面が見晴らせた。街では箱根の温泉宿が風情のある雰囲気を醸しだし、ところどころであがった湯気が僕をあたたかくしてくれた。

それからアコーディオンの蛇腹のような道は一時間ほどで終わり、山を下りるとそこは湘南海岸だった。晴れ渡った空にシロップをこぼしたような青い海が広がり、空と海の境界線がくっきりとわかった。僕は箱根の方を振り返ってから再び前を向いて進み始めた。 道路は常に海岸沿いに続いていて自動車専用道路の区間は中の方へ入ったが、建物の合間から見える海の光景は僕をとても興奮させた。茅ヶ崎へ入ったとき僕の頭の中ではサザンオールスターズが「涙のキッス」を気持ちよく歌っていた。僕はわざわざiPodの曲をサザンオールスターズに変えて聴いた。海では冬だというのにサーファーたちが波に乗り、暑い夏の記憶を呼び覚ましてくれた。僕はコンビニに行き、オレンジジュースを買って一気飲みをした。最高だった。しばらく進むと道路は海岸から離れて興奮はどこかへいってしまったが、今度は栄えた町が姿を現してきた。

横浜へ着くとこれまでと比べものにならないような建物やビルや車や人の数に驚いた。人々はせわしなさそうに道を歩いていてその様子をぼんやりと眺めていると、僕はいろいろな種類の人間がいることに気づいた。ベビーカーを押して歩いている主婦、しわひとつないスーツを着ているサラリーマン、なにやら楽しそうに話している大学生、腕を組んで散歩している老夫婦。そして国道十六号線沿いには飲食店や銀行やスーパーやコンビニなど生活に一切困らないような店舗がずらりと並んでいた。僕は何に目を向けていいのかわからないまま大きな道路を走り、彼の待つ大学のカフェへと向かった。